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飛鳥京香/SF小説工房(山田企画事務所)

飛鳥京香/SF小説工房(山田企画事務所)

腐敗惑星● (4)から

■腐敗惑星■
作 飛鳥京香(C)飛鳥京香・山田企画事務所
http://w3.poporo.ne.jp/~manga/pages/

腐敗惑星(4)
 自覚だった。どうしても実現しなければならない。そう彼は思った。世界は彼に依存し
ている。内なる声が、彼を旅立たせる。二度と戻れぬ旅だろう。犠牲の旅だと思った。惑
星ガルガンチュアから、彼は出発しょうとしていた。
 この星ガルガンチュアはようやく彼の手で復興が進みつつあったが。
 何者が呼んでいるのだ。が目的は1つ。彼女に会うこと。命を与えること。名前はわか
っていた。トリニティ。

 星が見えた。幾重にもはりめぐらされた防衛網が、彼の特殊な眼からは見ることができ
た。
 が、いかなる困難を払ってでも……と彼は思った。心を決め、その絶対防衛圏に突入し
た。体が燃えていた。外皮がバラバラと焼け落ち、成層圏の中に散らばっていくのがわか
った。追撃してくる飛行体があった。ドリフィングゲートからうちだされたミサイルだっ
た。自らの力で、それを何機も打ち破った。眼から放たれた炎の剣が、それらのミサイル
を粉々に打ち破っていた。

(5)
 フライトデッキの中には、宇宙監視機構の監視員(ウォッチマン)が勤務についている。
彼らの役割はこの惑星から、妙な生物が生まれ出てこないのかをチェックすることだった。
この惑星に呼びおこされ、ひきこまれてしまう宇宙船には何の興味もなかった。助けよう
ともしながった。その行為が、この星の生命行動だとしたらそれはそれでしかたがない。
誰にも星の生命活動を止める必要や、権利はないのだから。
 ただ問題なのは、この惑星の腐肉の内から発生してくる新生物が他の惑星や宇宙に悪影
響を及ぼすかどうかなのだ。
 フライトデッキのウォッチマンは、腐敗の風の存在には気づいていた。が、彼らのフラ
イトデッキは風の存在層のはるか上方にあり、干渉しょうとは想わなかった。
「ああっ、また堕ちていく」
 ミラーがコントロールルームにあるCRTを見ながらつぶやいた。
「今度はどこの船だ、ミラー」ラフラタが尋ねる。
「どうやら、ケンタウリのカーゴシップの様ですな。船籍α315-620。視認」
「OK、ミラー。データはインプットした」通常業務だ。彼らには何の感情もなかった。 ミ
ラーと呼ばれた男、通称、ダーティ=ミラー。階級は伍長。ここに勤務して3年になる。
彼の上官はラフラタ。階級は中尉。勤務歴10年。
 しかし、ミラーは、この山羊顔のラフラタのまなざしがずっと気になっていた。何か異
常だった。それに、なぜ、このフライトデッキに10年もいる、通例デッキマンの任期ロー
テーションは5年が限度だった。

 この腐敗惑星は、何らかの基準で、宇宙の船を呼び集めて落下させていた。どんな基準
なのかわからない。
 宇宙のローレライ。
 生物を呼び集める星。
 呼び集められた生物は腐肉となっていた。
 フライトデッキのコントロールセンターに男が急に出現していた。ラフラタがきづく。
「お前はだれだ」
「私を投下しろ」男は絶叫していた。黒い服をきたこれといって特徴のない男だった。
「どこから、出現した」ミラーが叫んでいた。「私?誰でもいい。このポッド投下装置を使
わせろ」
 探査ポッドは簡単に投下できる。このコントロールセンターにあるキーボードを一押し。
「お前気でもちがったか。この星がどんな惑星かしっているのか」
「腐敗惑星だぞ」ミラーは侵入者に言う。
「わかっているさ、なにしろ、自分の故郷の星だからな」侵入者は無表情に答える。
「故郷だと、お前はここの棲息生物か、そんなこと不可能だ。考えられん」
「そんなことがあり得るのか」
「私は故郷へもどりたいのだ」
 男は何度もつぶやく。
 忽然と、男の姿が消える。
ミラーはCRTをみてきずく
「いかん、ポッドがひとつ降下態勢に入っている」
「はやく、降下装置を解除しろ」ラフラタが叫ぶ。が、制止が効かない。
「だめです。制御レバーが動きません」
「くそっ、雲海のしたに落ちて行くぞ」 
「落下光点が消滅しました。あやつは一体」「わからん、ミラー、星庁・監視機構の本部へ
連絡しろ。生物が発生するかもしれんな。疑似生命がな」ラフラタはミラーに言った。「あ
やつはドリフィングゲートを易々と通過したのだな」ラフラタはミラーに言うでもなくつ
ぶやいていた。
 ドリフィングゲートとは、侵入者に対する防御システムである。星に呼び寄せられるの
ではなく、宇宙船の残骸を盗むために侵入してくる宇宙海賊を防ぐ為のシステムだ。確認
されない侵入者に対して光子ミサイルが次々と発射される。
「あやつは、ひょっとして死せる魂かもしれんな」ラフラタは考えぶかげにいった。
「死せる魂ですって、それは一体」
「死せる魂とは、生物でも、機械でもない。意識体、あるいは霊体である」
 ミラーは上部機構への連絡と聞いてほくそ笑んでいた。
『これはチャンスかもしれん。時がきたのだ』 なぜ、彼がこの単調なフライトデッキを
任務地と希望したのか。それは過去に、その訳があった。

「お前、デッキマンだね。それも新米の」占いの巫女がミラーに言った。ここはシティの
盛り場だ。5年前、宇宙の中心星ピラトのオクマ・シティだった。ミラーが連邦宇宙大学
を卒業した頃だ。配属先は星庁の管轄下にある監視機構であった。
「そうだよ、それがどうしたのだ」いぶかしげにミラーは答える。荒手の募金活動じゃな
いだろうな。ミラーはこの種の募金にうんざりしていた。いわく宇宙戦役募金だの、戦争
孤児募金だの、宇宙植民募金だの…
「お前にいいことを教えてあげようじゃないか」巫女はにやりと笑う。危ないぞ、こんな
奴に限ってオアシが高いのにきまっている。「いらないよ、占いのおし売りはお断りだ」ミ
ラーは足早に立ちさろうとした。が、うしろから巫女がうむをいわさぬ調子で言葉を投げ
かけてきた。
「世界最高の宝を欲しくはないのかい」その言葉にミラーは急に振り向く
「それは何だ」興味シンシンの顔だった。
「ほほっ、興味を持ったね。教えてあげよう、特別にね」
「もったいぶるなよ」
「禁断の実だよ。それについての情報だよ」「禁断の実だって、そいつは『新生神書』の『最
後の楽園』に出てくる神話じゃないのか」「それくらいしか、知らないのかい。見たところ、
星庁に努めているらしいけど。この言葉の深い意味もしらないようじゃたいしたことはな
いね。お前も、もっと歴史をお知り、そうすれば、私がいった意味もわかるさ」軽蔑する
ように、首をふりながら彼女は言った。「でも気をおつけ、その禁断の実にさわる時はね」
ミラーの方を節くれだった指でさした。「俺は禁断の実を持てるのか」
「そうさ。おまけに、お前は古代世界をかいま見ることができるだろうがね」
「古代世界?,かいまだと、どういう意味だ」「もう、今日はおしまいさ」気味の悪い占い
の終り方だ。
「どういう意味だ。俺がそこで死ぬとでもいうのか」
「しかたがないね。おまけに、もう1つヒントをあげるよ。腐敗惑星についてお知らべ。
これで本当におしまいさ」
「なんだって、あの汚染された星か」
「いいかい、これで、私の未来の占いは終りだ」
 ミラーは10ソブリン銀貨を巫女に投げあたえた。
「いい事を聞かせてくれたな、お礼だ」
「いらないよ。今夜はサービスだよ」
巫女の姿は急に、若い女性に変身する。
「あ、おい、待てよ。消えた」
 ミラーは体をふるわす。寒気が急に襲ったのだ。
「今のは悪い夢じゃなかったのか」
が、ミラーの見たのは夢ではなかった。
《昔のミラー》
ミラーは必死で資料を探している。
ここは監視機構の研修センターである。
「ミラーくん、隣に座っていいかな」スニンがミラーに話しかける。
「あ、どうぞ、スニン先輩」
「どうだね、勉強は進んでいるかね」
「ええ、何とか、監視機構の研修についていこうと必死ですよ」
「ところで、君、何の本を読んでいるのかね」
スニンは急にミラーの読んでいる本の表紙を持ち上げようとした。慌てて、それを隠そう
とするミラー。が、表紙が見えてしまった。「新生神書」である。
「おや、おや、君も中々信心深いようだね」
「いえ、それほどでもありません」
「君は隠れ宗教家ではあるまいな」
「まさか、そんなことはありえません」
「ミラーくん、率直に聞こう。君は、腐敗惑星へ赴任したいかね」
腐敗惑星だと、なぜだ。なぜこいつは知っている。ひょっとして、いやぐうぜんというこ
ともあるな。ミラーは、できるだけ平静を装うとした。
「続けて聞こう。君は禁断の実を探したいかね」
ミラーはこの言葉を聞き、顔が青ざめるのが自分でもわかった。なぜ、このスニンが、あ
の夜の占いを知っているのだ。
「ミラーくん、我々は君をスカウトしにきたのだ。安心したまえ」
やっと、ミラーの声が出た。いささかかすれていたが。
「いったい、あなたは」
「ダークサイドの人間だよ。ミラー君」


ミラーからの連絡は、星庁監視本部へ届いた。監視本部統合本部長の席へ、そのデータは
届けられる。緊急会議が開かれることになった。
「ハノ将軍、どうします。一個中隊を派遣しますか」
「現在の対トルメン戦の現況では、最新兵団の派遣はできん」
「それなら、ちょうど補助軍団が近くの軍域にいるはずですが」
「ちょうどよい、彼らを行かせてはどうかな」ハノは言う。
「ハノ将軍、あの星の重要度から考えて、反対します。あの星には最新軍を行かせるべき
です」
「ノワク君、君は私の意見にいつも反対するね。で、どういう理由で最新軍を行かせるつ
もりかね」
「あの星ルーンα627、通称腐敗惑星には、この宇宙の秘密をにぎる何かがあると考え
られます。それゆえ、前から私が主張していますように、あの星の監視体制も強化して、
そして最新軍を行かせるべきなのです」
「ほほ、あの腐敗惑星が、宇宙の秘密をだと。ノワク君、いいかげんにしたまえ。君の妄
想癖にはあきあきした。論議はもう終わりだ。ここの議長は私だ。私の命令に皆従っても
らう。腐敗惑星には、2348コマンドを行かせる。予備兵団だ」
「しかし、将軍。この星の状態はレッド信号のようですが」
「わかった。もし危険と現地が判断すれば、星を攻撃してもよい許可を彼らに与える。本
日の会議は以上だ」
ハノは会議を終えたあと、議場を出て行こうとするノワクを呼び止めた。
「ノワク君、あとで私の室にきたまえ」
「何か、ご用が、将軍」
「それはあとでわかることだ」
「ノワク君、辞表を出したまえ。他の星庁に速やかに移管させてあげよう。今のうちだよ」
「将軍、それは私に対する脅しですか」
「そのとおりだ。ところで君は私の行動をチェックするように星庁監視機構に連絡したよ
うだね。私の友人はあちこちにいるからねえ。その種の情報はすぐ耳に入る。ノワク君、
私に対する口のききかたにせいぜい注意することだ。君はまだ若い。閑職で定年を迎えた
くはあるまい」
「将軍、あきらかに、私の発言はあなたの欠点をついたようですね」ノワクは強気で答え
た。
「この青二才め。私がこの場でお前を殺さないことを有り難く思え。君は明日からここへ
来なくてよい。植民庁へ転任だ。植民庁で移民だまりの便所掃除でもやっていろ。それが
お前みたいな人間にはぴったりだ」
「将軍、私はあきらめませんよ」
ノワクはそう言い残すと、ハノ将軍のプライベートルームを出ていった。
ドアの後ろからハノ将軍の腹心であるデルが出てくる。
「将軍、どうします。あやつの処理は」
「デル、お前に処理を任すが、いいか、あいつがどの程度の情報を得ているか調べろ。処
分はそれからだ」
「やり方は任せていただけますか」
「むろんだ。とにかく早急に。誰にも気付かれぬうちにな。妨害が入るとトポールたちが
動けないからな」
「わかりました。それでは」
デルもハノの部屋から出ていった。


ハノ将軍はトポールと向かい合っている。
「いいか、トポール。お前にチャンスを与えてやる」
「おやおや、おやさしいことで」
「トポール、言葉に気をつけろ。私はお前ら傭兵風情ではない」
「わかっておりますとも。あなたが名家のお生まれで、この宇宙のエリートクラスに属し
ておられることもね。でも将軍、あなたが宇宙軍全体でどう言われているかご存じですか」
「何と呼ばれておるのだ。聞く耳はもたんが、聞くだけは聞いておいてやる」
「腰抜け将軍。それも実戦を知らぬ二等以下の人間だ」
「トポール、よくも抜かしたな」
「おやおや、汚いお言葉だ。でもいままで、誰も将軍のその形のよい耳には、そんなうわ
さが流れてきませんでしたか。ああお許し下さい。そのかわいそうなお耳を、私の汚らし
い言葉が汚してしまったのですね。あっ、ひょっとしてつくぼになられるのでは。お耳が
真っ赤ですよ。将軍、お気付きですか。熱があるのですか。顔の色もお悪いようだ」
「トポール、いいかげんにしろ。お宮が目の前にぶら下がっているこの時期に、私を怒ら
せるのか」
「お許しください、将軍」トポールは片足を曲げ、腰を沈めた。
「ともかく、腐敗惑星に急行しろ」
「何が起こっているののですか」
「トポール、いいかげんにしろ。お前も知っているはずだ。お前たちはときおりわざわざ
船をあそこまで持っていって、腐敗惑星に落下させているだろう」
「はてさて、何のことやら」
「いいか、最近の船では、ケンタウリのカーゴシップα315-620だ」
「おやおや、よくご存じですね。確かに探索船が腐敗惑星に沈下したようですがね」
「早く行け」
「わかりましたよ、もうすでに軍団はアルハタ宇宙港にて出発準備が整っております。攻
撃艦タイコンデガもね」


《トポール←→ジェームズ軍医》
「どうします」
「というと」
「うむ、中尉のことです」
「彼が」
「トポール大佐、もうおわかりだと思います。あなたもわかっていながら、眼を塞ごうと
なさっています。彼ラムはあなたに対して氾濫の意志を持っています。あなたにかわって
独立装甲兵団の指揮を執ろうとしています。あなたも、それはおわかりでしょう」
「ジェームズ軍医、あなたのありがたいご忠告はわかった。それで私にどうしろというの
だ」
「今回の任務にラムを連れて行くのは非常に危険です」
「ジェームズ」
「はっ」
「危険は我が友よ。独立装甲兵団が危険や死を恐れて何ができる」
「大佐、また、あなたの悪い癖がでましたね」
「どういうことだね」
「トボケルのはおやめ下さい。あなたの自殺性癖が、またあらわれているのですよ。いけ
ない。今回の任務はおやめ下さい」
「ジェームズ、きさまごときになにがわかる。今回の任務はハノ将軍よりの直々の任務だ
ぞ。それを世界に、この宇宙を手に入れることができるかもしれんのだ。そんな任務をこ
の俺がしりごみできると思うか。それがわからぬ、お前でもあるまい」
「大佐、老いられましたね。昔のあなたなら私にそんなグチなど言うことはなかった」
「そういう君も、私にこんなことはいわなかっただろう。わかった。ラムの件は心にとめ
ておく」
「どうなさるおつもりですか」
「彼は別動隊の指揮をとらす。あやつは確かに血の気が多すぎるかもしれん。我々皆を危
険に陥れるかもしれんからな」


「ラフラタ監視員のデータがどうもおかしい」
「おかしい、どんな風にだ。監視員として不適当ということか」
「そういうのではなくて、ラフラタの年齢なんです」
「まさか、18歳未満というのではあるまい」
「この写真をご覧下さい」
「えらく古い写真ではないか」
「この写真のこの部分をご覧下さい」
「ラフラタか、こいつは」
「そうお思いになるでしょう。が、この男はフライトデッキ「ミューズ号」の設計者ドナ
ルド・ローデンバークなんです。この写真は300年前のものです」
「まだこの監視機構ができあがる前か」
「そうです」
「ミラーに連絡をとれ」
「残念ですが、あのエリアは電磁嵐に覆われ、通信不能に陥っております。さらに、ミュ
ーズの側で破壊工作が行われた可能性があります」
「いかが処理しましょう。軍団にラフラタにかわる交換要員を派遣いたしましょうか」
「いや、まて」ともかく軍団が向こうについてからだ。それからにしよう」


連絡が終わったあと、ミラーはつぶやく。
「さて、さて、安全処理をほどこすか」
ミラーは、プラットフォームから小型宇宙船の中へ潜り込んだ。スイッチをいれる。電子
頭脳ツランが目を覚ました。モニターにツランの疑似顔面があらわれる。
「ミラー、何か用なの」ぞんざいな物の言い方でツランがつっけんどんに答える。
「通常の任務は終わったのでしょう。よけいな時に私を起こすのじゃないわよ。私は疲れ
るのですからね」そのじゃけんな喋り方を気にせずミラーはつぶやく。
「お世話になったね、ツラン」
「えっ、あなた、まさか、任地が変わるとか、そういうことじゃないでしょうね。わかっ
た。そうだ。この前の失敗が星庁に報告され、それでクビになったってわけか。そうでし
ょう。だって、私があなたの失敗をシークレットラインで星庁に報告しておいたものね。
あ、あ…しまった。しゃべりすぎた」
「い、いまのは冗談よ、ミラー。私がそんなこと言う訳などないじゃない。こんなに仲の
いいお友達ですものね、ね、そうでしょうミラー」
「この、おしゃべりあまめ」ミラーは今までの不満がついに爆発していた。
「俺の失敗の報告は、きさまが報告していたわけか。俺は今の今まできさまを信じていた。
俺がバカだった。上司のラフラタが星庁へ報告していたと思っていだんだ」
「え、え、私が悪いは。え~ん泣いちゃう、ね。この涙が見えるでしょ」
モニター画面に波でが流れる。
「ミラー、許して、もうしません。あなたのいいつけどおりにします」
「無駄だよ、ツラン。俺はある決意をした」
「え~、私のあやまり方が足りない。いいわよ、どうせ。私はタフなコンピュータよ、何
さ。ははん。わかった。あなたの心変わりは、さっきの星間通信と関連があるわね」
「何んだと、私が知らないとでも思っている。み~んな、お・み・と・お・し。あなたが
コソコソと、ラフラタにも内緒で星間通信をしていたことなんてね。まさか、あなた、私
がそれを知らないとでも。へん、アンポンタン、ノータリン。私はあなたよりも、も・っ・
と、頭が良いのよ。あなたの考え方など、お・み・と・お・し。あなたが何を狙っている
かね。それでなきゃ、こんな星へくるわけがないでしょう。私はずっーと、あなたの行動
要因を分析していたのよ。あなたの夢の内容まで、すべておみとおし。あなたのベッドの
コンピュータラインを密かに繋いでおいたのよ。へーんだ。何、何よ、私をどうするつも
り。ま、まさか」
「そのまさかだよ、ツラン。そこまで知られれば許しておけんな」
「間。まてよ。わかったわ。あ、あなたのご希望どおりのパーソナリティになるわよ。あ
なたの初恋の人ツランのパーソナリティにね。今までのデータ不足だったけれど、夢から
判断すればお美しい方ね、そうなります。許してちょうだい。ねえ、どう」
猫なで声でツランはミラーに擦り寄る。
「そんな甘え声を出したって、もう無駄さ。お前のパーソナリティを抹殺するよ」
「ダ、ダメ、ミラー。助けて、誰か」
消滅ボタンがミラーによって押された。
「さて、さて、口うるさい奴だったが、ゆっくりと新しいツランに私のパーソナリティを
引き移しておくか。応援部隊がくる前にな」ミラーは独りごち、にやりほくそえんだ。


 ポッドは男をのせたまま、生存層に突入する。そこは、腐敗した肉のにおいがした。
「まだ彼女のいるエリアではないな」男はひとりごちた。見たこともない不思議な生物が、
彼の方を見ていた。その生物は炎の眼を持ち、頭に一角が生えていた。それがポッドにい
る彼の方へ向かって走ってくる。
「おいおい、あやつは私を攻撃するつもりか」 が、彼はそれを相手にせず、さらに下層
にポッド内にある降下レバーを下げ、ポッドをくぐらせた。腐肉の中を、ポッドが下層へ
沈んでいく。
 ポッドは、星の表面から地下へ侵入する機能は本来ない。不思議なことに、男はこのポ
ッドを自分の思うがまま操っていた。
「彼女のいるにおいがする」
 彼の体をつつみ、ポッドは流線形に姿をかえ、固体層を突き破り進んでゆく。この世界
は何層にも積み重ねられた不思議な世界だ。 彼の眼の前に、温点が見えていた。そのあ
たりの地層が温度変化をおこしている。
 『彼女に違いない』彼は確信をもった。
 闇の中で、彼女の姿は輝いて見えた。

(6)
 彼女は、海の中を漂っていた。
 総てがまだ未発生なのた。
 顔も、記憶も。
 ただ肉体だけが、残っている。
その海はこの星の中核部にあった。巨大な球体が腐肉から海を守っていた。
 その中で彼女はまどろんでいる。体は透明なカプセルに守られている。何者なのか、た
だ一人、この大いなる《静かの海》にたゆとうている。この前はいつ目覚めたのか。だれ
もしりはしない。年もわからない。ただ幼児の体型だった。

通常は腐肉の表面までしか降下できないのに、男の乗ったポッドは腐肉を突き切って来た。
 降下した男は、この球形世界《静かの海》にたどり着いていた。
 男はこの海に装置されたコアにはいった。そこにはモニターが設備されていた。操作卓
に前に座る。
「トリニティ、我がこよ、目覚めてくれ、お願いだ」
 男の願いが通じたのか、彼女の意識が開いたようだった。男はくいいるように覗きこむ。
男のいる操作卓のあるコアと《静かの海》は透明な膜でくぎられている。まだ、二人は遠
く離れているのだ。
 男はその少女に精神波を送る。
「君、私がわかるか」
「おじさん、だれなの」
「私は、君に命を与えるためにここに来た」 みしらぬ男はそう言った。
「どういう意味なの」
 彼女が聞いた瞬間、操作卓の場所が白熱していた。男の姿は消えている。
 「一体、なによ。あたしを起こしてさ。何用なの。へんなおじさん。いい、も一度眠る
もん」
 再び、彼女はまどろみに戻った。その時には彼女の顔ができあがっている。
 男が白熱した後、このコアの付属設備が急に作動し始める。《静かの海》に隣接した設備、
そのメインコンピュータが目覚めつつあった。
 この《静かの海》に近接するコンピュータ地下羊宮チャクラ。古代人類の記憶バンク。 
《静かの海》で一人の運命の少女が、いままさに誕生しょうしていた。

『おや、発生したようだね。早くここまでおいでよ。私の親よ、妹よ。早くここまでおい
で。私がきれいに始末してあげる。ああ、楽しみだわ』
 腐敗惑星のどこかで、誰かの意識がそう、語っている。彼女はしたなめずりをする。同
じ顔をしていた。

「どうやらあの子は目覚めたようよ」アリスは父に言う。腐敗惑星の表面で唯一ヶ所。大
陸化された場所。そこが機械城だった。その中にクリスタル=アリスはいた。彼女の精神
の中で、何かがコトリと音を立てて動いたのだ。それは彼女と同一のモノが動き始めたこ
とを意味した。同時に、又クリスタル=アリスか、あるいはトリニティかどちらかが相手
によって倒されねばならないことを意味した。本当は二人同時に存在すべきはない個体だ
った。
「本当か、アリス。いよいよ時が満ちたのだな」
「そのようよ、パパ」
「お前が世界子となれる日が近いのだな」
「うれしい、パパ。私が世界子となり、パパがその世界を統べることができるのよ」
「ああ、そういうことだ」


《アリス→16面体》
「パパ見て、黄金のリンゴがなったわ」
最後の楽園、その中央にある木に実がなっていた。
「ついに、ついに、時は来たりぬか。我がフクシュウの時は来たのか。セキリョウ王よ、
早く出現せよ。我々の手にかかれ」

■腐敗惑星■
作 飛鳥京香(C)飛鳥京香・山田企画事務所
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